もくじ
会ったこともない部下のことを、ぽんさんはなぜかよく知っている気がする
「なんかさ、その子、たぶん『頼まれると断れないタイプ』なんじゃない?」
ぽんさんのそんな言葉に、ドキッとさせられたことがあった。
私は仕事では一応“主任”という立場にあたり、日常的に部下や後輩の仕事に目を配っている。
ときには個人面談をして話を聞いたり、忙しそうなメンバーの仕事量を調整したり、口数の少ないメンバーにそっと声をかけてみたり。
そういうことをなるべく自然にやろうと心がけている。
気を配っていても、届かないときはある
でも、やっぱり私自身が見落としていることもある。
相手の「本音」に届かないと感じるときも、「何をどう考えてその結論に至ったんだ…?」と頭を抱えることも少なくない。
頭ごなしに叱ったりはしないようにしているけれど、相手の気持ちがさっぱり分からないこともある。
そんな時、助かっているのがぽんさんの目線だった。
会ったこともないのに、核心を突いてくる
ぽんさんは私が話す部下に一度も会ったことがない。
会ったことがあるのはせいぜい私の同僚たち数人で、それも1、2回飲みに行ったくらい。
だから私の会社の人たちについてぽんさんは、あくまで「私が話す人物像」しか知らない。
それでも不思議なことに、私が何気なく話す「今日あったこと」や「ちょっと気になったこと」に対して、
「うーん、それはAさんが悪いっていうより、その人のポテンシャルに対して仕事量が多すぎて、気持ちが切れたんじゃないかな」
「その子、自分がしっかりしなきゃってすごく思ってそうじゃない?」
そんな風に、スルリと本質を突くようなことを言ってくる。
“ただの勘”とは思えない、ぽんさんの洞察力
「えっ!そうかな?実はそうなった理由にはこういう事情があったんだけど…」
と、情報を補足すると、
「それならますますそう思ってそうだよね。いくらやっても報われない…みたいなモヤモヤした気持ちもあるんじゃない?」
と、さらに発想が膨らむ。
私はメモ魔なので、ぽんさんのそういう一言を心に留めておいたり、忘れないようにスマホにメモをしたりして、次の面談でちょっと意識しながら話すようにしていた。
すると、意外なほどすんなり相手の本音が引き出せたり、ぽんさんの言った通りの気持ちを抱えていたことを知った…ということがある。
「そんな風に思ってもらえてたなんて嬉しい」と涙を浮かべてくれたこともあった。
ぽんさんのアドバイスを得て初めて気付いたことなので少しズルをした気分だけど、気持ちを正直に打ち明けてくれるのは素直に嬉しい。
助言してるつもりがないらしい
「ぽんさんはすごいなぁ、よく分かったね。助かった。ありがとう」と言うと、ぽんさんはいつもきょとんとした顔をしていた。
本人は“助言している”という自覚がないらしい。
ぽんさんのこういうところには、ちょっと前から気付いていた。
自分に関係のないことでも勝手に脳内で「こういう背景があったらどう思うか」をシュミレーションしているらしく、気付くとこっちがハッとさせられるような言葉をぽつりと落としてくる。
“感じすぎる”人の、繊細な想像力
ぽんさんは、ADHDとASDの診断を受けている。
ADHDと聞くと「衝動的」とか「忘れっぽい」という特徴ばかりが語られがちだけれど、それ以上に「人一倍、相手の感情に敏感」という一面があるように思う。
ぽんさん自身、「言われた一言」を何日もぐるぐると考え続けるタイプで、「その人がどうしてそう言ったか」「あの時どうしたらよかったのか」といったことを、何度も角度を変えて考えている。
だから、私が部下の何気ない行動や口調について「こんな感じだった」と話すと、それをベースにぐるぐると仮説を立てて、ふとした時に「あの人、実は疲れてるんじゃない?」と返してくる。
声を上げられない人たちの心の声を、ぽんさんは上手く拾っている。
それはきっと、ぽんさん自身も誤解されて苦しんだことが多いからこそ分かることなのかもしれない。
だから「自分だったら」と思いを馳せられるのだろう。
ぐるぐる思考が、私のマネジメントに生きている
このやりとりが、驚くことにけっこう当たる。
私はぽんさんに「今日、Cさんが急に不機嫌になってさ〜」なんて話すと、「それ、もしかして“察してほしいサイン”だったのかも」と返される。
「いい大人なのに察してほしいってサインを職場で出されてもなぁ」
と私がぼやくと、
「それほど余裕がなかったんじゃない?」と。
なるほど、そういう考え方もあるか、と私の中で引き出しがひとつ増える。
あぁそっか、私の心が狭かったんだ…と目から鱗が落ちることもある。
前ばかり見て突っ走りがちな私の手を、ぽんさんは遠慮がちに掴んで止めてくれることが多い。
そのおかげで、「突っ走らないマネジメント」ができている。
マネジメントを、そっと支えてくれる人
ぽんさんは、無意識に私のマネジメントスキルを補ってくれていた。
助かったなぁ、と何度思ったかわからない。
「ぽんさんって、会ったこともない人の気持ちをなんでそんなにわかるんだろうね?」
そう聞いたことがある。
「いや、わからんけど……なんとなく、そう思っただけ」
と返された。
あくまで“なんとなく”らしい。
でも私は知っている。
その“なんとなく”の背景には、相手の気持ちを何時間でも考え続けてしまうぽんさんの思考のクセと、他人の感情に人一倍アンテナを張っているぽんさんの繊細さがあることを。
「この子、仕事振っても大丈夫かな?」
「抱え込んじゃうタイプの子なら、もっとこまめに確認してもいいかもね」
私が呟いたときのぽんさんの返答を、これからも大事にしていきたいと思っている。
それでもやっぱり、ぽんさんにとってはあくまで「ただの雑談」らしい。
きっとこれからも、さりげなく助けられていく
私はそんなぽんさんのさりげない言葉に、これまでも、そしてこれからも助けられていくのだと思う。
ぽんさんの優しい目線は私にはない強みだ。
見えない誰かの気持ちにそっと光をあててくれるその目線に、今日もまた「ありがとう」と思った。
ちゃんと伝わってるかは、分からないけれど。