もくじ
「次どこ行く?」から始まった
ぽんさんとの付き合い当初、私はよく混乱していた。
出かけるときには、何時にどこで待ち合わせて、どこでお昼を食べて、どんなお店に寄って、という流れをある程度イメージしていたいタイプだった。
でもぽんさんは違う。
ぽんさんは、「行ってから決めよう」「そのとき考えよう」で動きたがる。
「せっかく◯◯に行くんだし、近くにあるこの雑貨屋さんにも寄ってみない?」と提案しても、「あー、それはその時の気分かな」と返されてしまう。
そのたびに私は、計画の糸がプツッと切れたような気分になった。
「せっかく調べたのに」「こっちは気を利かせたつもりなのに」と、なんだか空回りしている感じがした。
私が提案したデートコースに対して「そんなに先に決める必要ある?」とぽんさんが嫌そうな顔をしたことがある。
映画やディナーの予約をしようとしただけなのに、何が嫌なのか私にはよく分からなかった。
私が計画を立てたい理由
私が予定を立てたいのには、それなりの理由があった。
・ごはん時にお店が混んでいて、探し歩いた挙句どこも入れないと、あらかじめ予約しておけば…と後悔する
・行きたかったお店がまさかの休業日、というのも避けたい
・1日の終わりに「ここも行ってみたかったな」と気づいて、もう閉店してるとやっぱりもったいないと感じる
そんな「もったいない」や「無駄だったかも」という感覚が苦手だった。
だから出かけるときには、行きたい場所とその周辺の情報をある程度確認しておきたい。
最初からやることを決めておけば効率よく時間を使えるから。
もちろん、途中で予定が変わっても構わないし、今はスマホがあればある程度はその場で対応できる。
さすがに分刻みのスケジュール管理なんてしていない。
でも、一日に対して“ある程度の見通し”は持っておきたかった。
ぽんさんにとっての「予定」とは
一方、ぽんさんにとっての外出は、「自由に動ける時間」だった。
予定をきっちり決めることで、かえって縛られてしまう感じがあるらしい。
「せっかく休みの日に出かけるのに、“やらなきゃ”って思いたくない」という気持ちもあるそうだ。
「今日はここでマグカップを見よう」くらいの目的はあるけれど、何時にそこへ行って、何を食べて、の詳細は決めたくない。
「その時に行きたい気分のものを食べたい」とぽんさんはよく言う。
デートに限らず、友達と遊ぶ時もそんな感じだというのでびっくりする。
「何時に出掛けるの?」と聞いたら「まだ決まっていない」。前日の夜なのに。
起きたら友達に連絡して、連絡が来たらそこから考えるのだという。
…結局シャワーを浴びたり、お昼を食べたりしてから、出かけるのはお昼過ぎ、下手したら夕方頃になることが多かった。
そのノープランぶりについていける相手もすごい。(その友達、大事にしなね…)と私は常々思っている。
最初は「わがままなのかな?」とすら思ったこともあった。
でもそれは、気分で行動したいという“性格”だけじゃなく、ADHDの特性も影響しているのかもしれないと気づいた。
ADHDの人にとっての「予定」のハードル
ADHDの人は、「予定を立てる」「その通りに動く」ということが苦手な場合がある。
頭の中に浮かんだことを整理して順序立てるのが難しかったり、気分や興味がその瞬間ごとに変わってしまったりするのだ。
「決めたから守らなきゃ」と思うほど、プレッシャーになってしまうこともある。
結果、立てた予定がしんどく感じてしまい、動けなくなることもある。
「今これがしたい」「今はしたくない」の波が大きく、気分で動く方が心が安定しやすい。
外から見ると「気まぐれ」「だらしない」と思われることもあるけれど、実際は必死に調整しながら過ごしているのだ。
予定が苦手なのは、怠けているからではない。
それは、脳の特性による「苦手」なのである。
「かっちり決めない」を、試してみた
ある日、私はふと思った。
「私がかっちり決めなくても、最低限やりたいことができていれば、いいのかもしれない」と。
それからは、こんな感じのデートをしている。
・今日は靴を買いに行く
・そのあと、気になっている店のマグカップを見に行く
・お昼ごはんはその時近くにある店で決める
・他に見たいものがあったら寄って、なかったら帰る
「靴とマグカップを買う」が目的で、その他はオマケみたいなイメージ。
この“ざっくりだけ決める”スタイルに変えてから、少なくとも私は楽になった。
時間に追われたり、決めたルートに無理に合わせることもなくなった。
「えっ、何も決まってないじゃん!」と私が思うことも減った。
「予定を決めなきゃ」と思っていた私自身も、気づかないうちに少し縛られていたのかもしれない。
すれ違いがなくなったわけじゃない。でも
今でもすれ違いはある。
出かける直前になって、ぽんさんが突然「やっぱ行かないかも」と言われて私がムッとする日もあるし、逆に突然「行こうよ」と誘われて私の気持ちが追いつかないこともある。
でも、以前のように「なんでちゃんと決めないの?」とイライラすることは減った。
ぽんさんなりのリズムがあること。
それを無理に変えようとすると、本人にとっても私にとっても苦しくなること。
そして、“ある程度のゆるさ”が、私にとっても意外と心地よいこと。
そんなことが、少しずつわかってきたからかもしれない。