ASDの夫と完璧主義|「完璧じゃなくてもいい」と思えるようになるまで

昔から完璧主義のぽんさん

ぽんさんは、昔からちょっとした完璧主義だった。

「せっかくやるならしっかりやりたい」
「中途半端なら、やらないほうがマシ」

それは一見、すごく誠実で真面目な考え方。
でも、その裏には「完璧じゃないとダメ」「ちゃんとしてない自分は価値がない」といった、強い思い込みが隠れているように思う。

私とぽんさんは、今は全然違う仕事だけれど、昔は同じ会社で働いていたことがある。
その頃から、ぽんさんはなぜか私のことを「仕事ができる人」だと思ってくれていた。
ありがたいけど、ちょっと過大評価な気もしている。

不慣れなマニュアル作成

最近、ぽんさんにちょっとした出来事があった。
ぽんさんが、自分の仕事の中で担当していた業務を別の人に引き継ぐことになったのだ。
そこで「マニュアルを作ってほしい」と言われたらしい。

ただ、ぽんさんは元々、物事を言語化するのが苦手。
特に、順序立てて「人に説明するための文章を書く」というのは、得意とは言えない分野だった。
しかも、マニュアル作成なんてやったことがない。

私は、ぽんさんが苦戦するだろうなと思って、いつでも声をかけられるように待機モードに入っていた。
「なんか行き詰まったら言ってね」と伝えて、見守るつもりだった。

……が、ぽんさんは仕事が終わって帰宅してからも、休日も、コツコツとパソコンに向かってマニュアル作りを続けていた。
なかなか相談してこないので、正直ちょっと心配していた。
でも声をかけて邪魔するのが憚られるほど集中してパソコンと向き合っている。

でも、ある日ふと「やっとできたんだ」と見せてくれたそのマニュアルを見て、私は心底びっくりした。

一人でやりきったぽんさん

ものすごく丁寧で、整っていて、作業画面のスクリーンショットも使われていて、手順ごとに図解がついている。
これ、ほんとにぽんさんが全部作ったの? と疑ってしまうほど、分かりやすい完成度だった。

「えっ、すごいじゃん!」
と私が言うと、ぽんさんはちょっと嬉しそうにしながらも、明らかにぐったりしていた。

「めっちゃ疲れた……」
そう言って、その日はいつもより早くベルとともに布団に潜っていった。

ぽんさんは、それまでは「やるからには100点じゃなきゃ」という思いが強かった。
ちょっとでもうまくいかないと「中途半端にやるくらいならもういい」と投げ出してしまうこともあった。

でも今回は、引き継ぎという「人に迷惑をかけたくない」という想いが勝ったのだろう。
「同僚たちに文句を言わせまい」という意地もあったに違いない。
何はともあれ、ぽんさんは一人で最後までやり切った。

私はそのとき、改めて思ったのだ。
100点を目指して作るって、こういうことなんだなって。

ふたりの違い

私はどちらかというと、80点くらいで「まあいいか」と思うタイプだ。
時には70点でも「急ぎだし、使えりゃいいでしょ」と割り切ってしまうこともある。
実際、会社で自分用や社内用に作る資料なんて、「見た目より中身」と割り切って、結構ざっくり作ることも多かった。

あるとき、家で私がパソコンをカタカタ叩いて社内資料を作っていたときのこと。
ぽんさんが後ろから画面を見て、「えっ、そんな感じでいいの?」と驚いていた。

言いたいことは分かる。
「仕事のできる人」なら見やすい資料をサッと出しそうなものだ。
でも私が「これでいいや」と言ったのは、「もっと時間をかけたらグッと見栄えが良くなりそう」な仕上がり。

「どうせ社内用だし、最低限は作ってるからいいんだよ。綺麗に作るのも大事だけど、完璧じゃなくても分かりゃいーんだ」
半分投げやりにそう伝えると、ぽんさんはすごく不思議そうな顔をしていた。

「満点以外に価値はない」という人と、「合格点が出りゃ御の字」という人の感覚の違いだろう。

「完璧じゃない自分」も、いつか受け入れられるように

私はぽんさんに何度も話をした。

「完璧じゃなくてもいいんだよ」
「100点を取らなきゃ許されないなんてことはないよ」
「あなたがやろうとしている姿勢だけで、十分すごいと思うよ」

繰り返し伝えて、繰り返し頷いてもらって、少しずつ、ぽんさんの中にも「完璧じゃなくてもいいのかもしれない」という考えが根付いてきたような気がする。
もちろん、ぽんさんの中に完璧主義的な部分がまったくなくなったわけじゃない。
今でも、必要以上に時間をかけてしまったり、資料のタイトルの位置が数ミリずれているのを気にして直したり、「もうそれでいいよ!」と私が言いたくなることもある。

でも、それでもいいと思うのだ。
完璧を目指すこと自体が悪いわけじゃない。
問題なのは、「完璧じゃないとダメだ」と自分を縛ってしまうことだと思う。

「60点でいいや」って思えたら楽だし、「60点の日もあるよね」って思えたら、もっと生きやすくなる。
「これもまたいいな」と思えたらすごく素敵だ。
そうやって、自分を少しずつ許せるようになっていくことが、きっと大事なんだと思う。

完璧主義じゃなくなっていくかどうかは、周りの人の影響や環境によっても大きく左右される。
だからこれからも、ぽんさんの「ほどよい完璧主義」を、私はそっと隣で見守っていきたい。