ASDの特性と引越しの相性|環境の変化が夫を不機嫌にする理由

環境の変化に弱いぽんさん

私とぽんさんは、付き合ってから結婚するまでのあいだに、何度も引っ越しをした。
それこそ免許証の裏の住所欄がびっしり埋まるくらい。
街も部屋もいろいろ変わったけど、そのたびに一緒に生活を立て直してきた。

だけどそのわりに、ぽんさんは引っ越しに弱い。
いや、正確に言えば引っ越し作業にはめちゃくちゃ強いけど、引っ越し後の環境の変化に弱い

荷造りは私よりずっと早くて丁寧だし、テキパキしている。
大きい家具も家電も、まるで引っ越し業者の人みたいなスピードで運んでくれる。
頼りになるどころか「私何もしてないけど大丈夫かな」って心配になるくらい。

でも、新しい部屋で朝を迎えた頃から、だんだんぽんさんの様子がおかしくなる。
なんとなく元気がなかったり、妙にピリピリしていたり。
小さなことで不機嫌になったり、こっちの言葉尻を捉えて突っかかってきたり。
一言でいうと、めんどくさい。

私は最初、その理由がわからなかった。
「疲れてるのかな」「何か嫌なことがあったのかな」と思って、気を遣って話しかけたり、好きなおかずを作ってみたりしたけど、あまり効果はなかった。
むしろ、何を言っても気に障るようで、どんどんやりとりがギスギスしていった。

ASDの人が「変化」に弱い理由

ぽんさんはASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けている。
ASDの特性のひとつに、変化が苦手というものがある。

「こだわりが強い」と言われることもあるけれど、実際には脳の切り替えが苦手という方が近い。
たとえば、

・間取りが変わる
・近所の道が変わる
・毎日のルートや生活パターンが違う
・音や光の刺激が今までと違う

こういう「ちょっとした違い」の積み重ねが、ASDの人にとっては大きなストレスになることがある。
私にとっては「新しい部屋、ちょっとワクワク」だったとしても、ぽんさんには「知らないこと=怖いこと」だったのかもしれない。

八つ当たりされるほうは、わりとつらい

ASDの特性を知れば、ぽんさんがしんどいのはもちろん分かる。
でもこっちにしてみれば、それで不機嫌になられたり突っかかられたりするのは、正直きつい。
私は何も悪いことしてないのに…って、思ってしまうことも何度もあった。

だけど何度か経験するうちに、ようやく気づいた。
これはぽんさんの性格が悪い」とか「機嫌が悪い」とかじゃなくて、ぽんさんの中で「大きな変化に適応するための時間が必要なんだと。

だからそれ以来、引っ越し後の数日~数週間は、ぽんさんがピリついていても、なるべく放っておくことにした。
過干渉にならず、遠くから「大丈夫そうかな」と見守る感じ。
かと言って孤独感を感じさせたいわけではないので、適度に声はかけていく。

正直、放っておくのは自分の心を守るためでもある。
心配して、傷ついて、それを繰り返していくのはつらい。

だからそうして少し一歩離れてみる。
あえて気にしていないふりをして、自分一人の時間にしてしまう。
そうしているうちに、やがてぽんさんの表情が少しずつ和らいで、前と同じ日常が戻ってくる。

また、ぽんさんは最近になってよく自分を俯瞰して見ている。
だから、「最近話しかけにくかったよね、ごめんね」と謝ってくれることもあった。

最後の引っ越しでは、ちょっと違った

そんなぽんさんだったけど、一番最近の引っ越しでは、不思議と落ち着いていた。
いつものように荷物はスムーズに運んでいたし、気分の浮き沈みもなかった。

理由はおそらく、その街が「昔住んだことのある場所」だったから。
駅の位置もスーパーやコンビニの場所も、ある程度わかっていた。
「知らない場所」じゃなかったことが、ぽんさんの安心につながったんじゃないだろうか。

もちろん引っ越すまで確証はなかったから心配だったけれど、幸いにも杞憂に終わった。
今はその街で、心穏やかに暮らしている。

人によって違う、変化の影響

ASDの人にとって、「環境の変化」は私たちが思う以上に大きな負担になることがある。
外から見えるのはほんの一部で、実際には頭の中でずっと不安や緊張と戦っていたりする。

何度も引っ越したことで、私は身をもってそれを学んだ。
そして、ぽんさんも少しずつ「変化への対処」がうまくなっていった気がする。

人間は変化を嫌う生き物だと言われている。
その言葉以上に変化が重荷になる人もいるのだ。
だから「なんでそんなことで落ち込むの?」ではなくて、「慣れるには時間がかかるタイプなんだな」って思えるだけでも、少し優しくなれる気がしている。