綿棒でのお手入れが、我が家の基本だった
ベルの耳掃除は、だいたい月に数回だった。
なぜか右耳だけ、なんとなく耳垢が少しついていることが多くて、左耳はいつもきれいだった。
ベルをお迎えしたとき、私とぽんさんはペットショップの店員さんに耳のお手入れについて教わっていた。
綿棒にイヤークリーナーをしみ込ませて、耳の内側を軽く拭く方法。
もちろん、奥までは入れない。あくまで軽く、表面をなでるように。
だけどベルは、耳掃除があんまり好きじゃなかった。
冷たい綿棒が入るとヒヤッとする感覚が好きじゃなかったり、くすぐったくて嫌がったりする子が多いらしい。
ベルも、綿棒を持った私を見るとほんのり警戒して、ぽんさんの後ろに隠れたりしていた。
耳掃除のときは、いつもぽんさんがベルを抱っこしてくれる。
私は綿棒を持ち、ぽんさんの膝の上にいるベルの右耳にそっと近づく。
ベルはじっと我慢するけど、目はちょっとウルウルしていた。
掃除が終わると、ごほうびタイム。
小さなおやつを一粒、ぽんさんの手から食べるベルは、「仕方ないからこれで許してやろうか…」みたいな顔をしていた。
そんなルーティンが、我が家の“耳掃除の日”だった。
いつもと違う耳掃除
そんなある日、近所のお店で爪切りをお願いしたついでに、普段は頼まない耳掃除をお願いしたことがあった。
その夜、気付いたらベルの耳の内側が、いつもより赤くなっていた。
「ん…?ちょっと赤い?いや気のせいか?」と首を傾げる。
ちょうどその少し後、ワクチン接種で動物病院に行ったときのこと。
診察のついでに耳も見てもらったら、先生が言った。
「ちょっと耳掃除、やりすぎたかもしれませんね。綿棒は使わない方がいいですよ。」
ずっと綿棒で掃除してきたから、驚いた。
でも先生いわく、犬の耳の内側はとても薄くて繊細。
コットンをちぎってふわふわにしたものを、綿棒の先にゆるく巻きつけて、イヤークリーナーでしっとりさせてから優しく掃除するのがベストだということだった。
「あと、そんなに頻繁にやらなくても大丈夫です。少し耳垢が残っているくらいのほうが、実はちょうどいいですよ。」
先生のその言葉に、ちょっと拍子抜けした気持ちにもなったけど、同時にほっともした。
いざ、フワフワのコットン耳掃除

さっそく家で、教わったやり方を試してみた。
コットンを割いてふわふわにして、綿棒の先にゆるく巻きつける。
イヤークリーナーを数滴たらして、やさしく耳を拭う。
……正直、あんまり汚れが取れてる感じはしなかった。
ふわふわすぎて、ちゃんと拭けてるのかよく分からなかった。
でも、「耳を傷つけないことが最優先」と思ったら、それでいい気がしてきた。
やり方は変わっても、基本的な流れは変わらない。
だいたい手順はこんな感じだった。
綿棒、コットン、イヤークリーナーを用意する
コットンを割いて、ふわふわにする
そのコットンを綿棒の先にくるくる巻く
イヤークリーナーを数滴しみ込ませて、耳の内側をそっと拭く
だいたいこの3~4のあたりで、ぽんさんがガッシリとベルを抱える。
私は綿棒を片手に、「ごめんね、すぐ終わるからね~」「ベル、頑張ろうね~」と声をかけながら、ぽんさんの膝に座らされているベルに向かい合って座る。
ひとつの耳にかかる時間は、1分もしないくらい。
イヤだけど、ちゃんと付き合ってくれるベル
ベルは毎回イヤイヤながら、暴れたりはしなかった。
ただ、目をそらして「今だけ心を無にしてる」といった顔をしていた。
耳掃除のあとは、恒例のおやつタイム。
終わってもぽんさんの膝から逃げ出さず、なんならその体勢のままご褒美のおやつを食べる。
そして食べ終わると、ベルは「もう1個くらい、あるでしょ?」と見上げてくる。
その顔を見ると、こちらもなんだか申し訳なくて、つい2個目をあげてしまう日もあった。
耳掃除は、ベルにとってはちょっとイヤな時間。
だけど、なるべく怖がらせたくなくて、たくさん声をかけて、いっぱい褒めちぎっていた。
「えらいね!」「がんばったね!」「おりこうさんだったね!」
もはやテンションだけなら、表彰式だった。
ベルが健康でいるために欠かせないケア。
やり方も頻度も、昔とは少し変わったけれど、今のほうがきっとベルにとっても心地いい。
なにより、終わったあとに「もうないの?」とキラキラした目で見上げてくる顔が、それを物語っていた。