雑談が苦手=コミュ障じゃない?ASDの夫が会話を避ける本当の理由

雑談が苦手な夫。聞き役に徹する理由

うちの夫・ぽんさんは、いわゆる雑談が苦手だった。
無口というわけではなく、話すこと自体が嫌いなわけでもない。

だけど、職場の休憩中や、誰かとのちょっとした立ち話など、いわゆる“なんとなく話す”という場面になると、急に言葉が出てこなくなるのだった。
だから、いつもぽんさんは聞き役に回っているタイプだった。

「何を話せばいいのかわからない」

ぽんさんにはASD(自閉スペクトラム症)とADHDの診断がある。
その中でもASDの特性である「曖昧さが苦手」という部分が、雑談に対しても影響しているようだった。

例えば、仕事の会議や明確な用件がある話なら、自分の考えを整理して話そうと努力する。
でも、雑談のように目的のない会話になると、「何を話せばいいのかわからない」
と固まってしまうのだった。

「なんでもいいよ」「気軽に話して」と言われても、その“なんでも”の範囲がつかめない。
「家どのへんなの?」
「出身ってどこ?」
「週末、普段何してるの?」

そんな何気ない会話すら、「それってプライベートに踏み込みすぎてない?」「嫌な思いをさせるんじゃない?」と不安になってしまうらしい。
「そんなことで?」と思うかもしれないけど、ぽんさんにとっては大きな壁だった。

止まらない深読み

ぽんさんは、人の反応をすごくよく見ている。
言葉や表情、声のトーン、目の動き。
そしてそれを、ものすごく真剣に受け止めてしまう。

たとえば、相手が話題を変えたとき。
「今の話、つまらなかったのかな」
「不快だったのかも」
「もう話したくなかったのかもしれない」
と、どんどん深読みしてしまう。

目をそらされたり、返事のテンションが少しだけ低かったりするだけで、心の中に引っかかってしまう。
そして、何日も経ってから「あのとき、やっぱりまずかったかな」と、ふと思い出して気にしている。

気にし続ける

私に対しても、最初の頃はそうだった。
たまたま私が急用を思い出して話題を変え、「ごめん、そういえばあの件ってどうなってたっけ」と聞いたら、「本当はこの話をしたくなかったんじゃないか」と思いつつ、私に真意を聞けないままずっとモヤモヤしていたのだ。

ぽんさんは表情が読みにくいものの、一緒にいるうちにぽんさんがモヤモヤしている時は少しずつ分かるようになってきている。
私から「何か悩んでる?」と切り出してみると、「さっきの話、嫌だった?」「さっきちょっと怒ってた?」と聞かれるようになった。

その内容は、私が気にも留めずに忘れていたり、無意識だったりしたことばかり。
「えっ!?そんなことないよ?」と慌てて答えると、ぽんさんはホッとした様子になる。

目をそらした気がした。
話題を急に変えられた気がした。
一つ一つは本当に小さなことで、「気のせいレベル」なんだけど、ぽんさんにとっては大きなことだったらしい。

大量のエネルギー消費

ぽんさんの頭の中は、そういう“相手の反応を考え続けるモード”でずっと動き続けているのだった。
「たかが雑談」と言われることもあるけれど、ぽんさんにとっては、全然“たかが”じゃない。
本当に神経を使うコミュニケーションなのだ。

そんなふうに、ぽんさんは雑談のたびに、ものすごいエネルギーを消費していた。
会話の目的が不明確なだけでなく、相手の反応を丁寧に読み取り、失礼がないように言葉を選び、反省を繰り返し、相手の表情を読み、次の話題に悩む——。

数分の会話なのに、終わるころには疲れてしまう。
だから自然と、自分から話すよりも、聞くことの方が多くなっていくのだろう。

それでも、人と関わりたい

それでもぽんさんは、人との関わりを避けているわけではなかった。
むしろ、ちゃんと関係を築きたい、うまく話したい、という気持ちがずっとあった。

だからこそ、自分からうまく話せない代わりに、「ちゃんと聞く人」になろうとしていた。
相手の話に耳を傾け、頷き、リアクションを返す。
表情や空気を読みながら、相手が気持ちよく話せるように工夫していた。

帰ってくると、「○○さん、今日こんな話してた」「〇〇さん、先週ライブ行ったんだって」と私にぽつりと教えてくれることもあった。
その声には、相手への敬意や、関係を大切に思う優しさが滲んでいた。

雑談が苦手=コミュ障じゃない

ぽんさんのように、雑談が苦手な人は決して少なくない。
でも、雑談が苦手=人と関わりたくない、というわけではない。
むしろ、ぽんさんのように「相手を傷つけたくない」「嫌われたくない」という気持ちが強い人ほど、雑談の難しさに直面してしまうのだと思う。

私自身は、お喋りが得意ってほどでもないけど、特に苦手というわけでもない。
面倒だなと思う時もあるけれど、「適当に話していればそのうち盛り上がるでしょ」と思っていたし、細かいことはあまり気にしない。
でも、ぽんさんと一緒に暮らすようになって、雑談の裏にある気遣いや緊張を知るようになった。

沈黙してしまう人にも、ぎこちない返答しかできない人にも、その人なりの理由や背景があるのだろう。
ぽんさんと同じように。

その優しさが伝わりますように

今もぽんさんは、雑談が得意とは言えない。
でも、無理して話そうとしなくてもいいと思っている。
ぽんさんのやさしさは、話し方じゃなくて、聞き方にもちゃんと表れているから。

ぽんさんは今日も、聞き役として静かにその場にいて、相手の言葉に耳を傾けている。
その姿を、私は誇らしく思っている。

これからもぽんさんが、そしてぽんさんと同じように悩む多くの人が、自分のペースで人と関われますように。
そしてその優しさが、少しずつでも伝わっていきますように。