犬も夢を見る?寝言に込められたリラックスのサイン

初めての寝言──あれ?これって大丈夫?

初めてベルの寝言を聞いたのは、ベルがまだ生後数ヶ月の頃だった。

その日、私たちはリビングでテレビを見ていた。ベルはお気に入りのふかふかクッションの上で、丸くなって眠っていた。まだ手のひらに収まりそうなくらい小さな体。ときどきピクッと足を動かしたり、ぴくぴくと口元が動いたりすることはあったけれど、その日は違った。

「ぷっ、ぷっ……」

突然、小さな高い声が聞こえた。声の主はベルだった。寝ながら小さな体をふるわせて、小さな寝息のような、でもどこか鳴き声にも似た音を出している。しかも、うっすら白目をむいているものだから、私もぽんさんもびっくりして、思わず顔を見合わせた。

「えっ、これ大丈夫……?」
「痙攣……?てんかんとか……?」

私の頭の中には不安な言葉が次々に浮かんだ。とにかく後で正確に確認できるようにするため、その時の様子をスマホで動画におさめた。

不安な夜と、動物病院での診断

翌日はちょうどワクチン接種の予定があったので、病院でその動画を見せながら、先生に尋ねた。

「寝てたら急に体が震えて、高い声を出してて……動画も撮ってきました。もしかして、何か異常があるんでしょうか」

先生と助手さんは、真剣な顔で動画を見てくれた。数秒、無言の時間が流れる。
その間、私は不安でたまらなかった。

何か大きな病気だったらどうしよう。
昨日の夜のうちに救急に駆け込むべきだったかな。
何かやったほうがいい処置とかあったのかな……。

祈るような気持ちで待つこと数秒。
10秒程度の動画を見終わった二人はふっと笑った。

「寝言ですねぇ」の一言に、心がほどけた

「これは……寝言ですねぇ。きっと、何か楽しい夢でも見てるんでしょう。いやぁ、リラックスしてる証拠ですよ」

助手さんもにこにこしながら頷いていた。

……えっ、寝言???
拍子抜けしたような、でもすごくホッとした気持ちになった。
「良かったぁ……」と、ぽんさんと顔を見合わせて小さく息を吐いた。

ぽんさんは昔実家で犬を飼っていたことがある。でも寝言を聞いたのはベルが初めてだったらしい。

「犬って寝言言うんだねぇ」としみじみ呟いていた。私も同感だ。

結果的に動物病院で先生に確認してもらうことができてよかった。あんな謎の高音を聞いた後では、ベルが元気でも心配になる。

「心配になる音」が「ベルが心からくつろいでる証」だと分かって、私たちはすごく嬉しくなった。

癒しの寝言バリエーション、今では日常に

それから数年たった今でも、ベルは週に何度か、あの「ぷっ、ぷっ……」という寝言を言う。
たまに「ふん!」と鼻息みたいな寝言のバリエーションもある。
聞き慣れてしまった今では、私たちにとって完全に癒しの音になった。

「今日もリラックスしてるんだなぁ」
「どんな夢見てるんだろうね。走ってる夢かな?」

起こしてしまわないように小声で話しながら、そっと見守る。
ベルは私たちのやり取りには気付きもせず、「ぷっ…ぷっ、ぷっ」と断続的に寝言を漏らし続けていた。

自分の寝言で起きちゃうベルもまた可愛い

ただ、ひとつ困るのは、ベルがたまに自分の寝言でびっくりして起きてしまうこと。
寝ていたのに突然「はっ」と顔を上げて、きょとんとした顔でこちらを見る。
それはまるで「寝てたのに、何があったの?」と言いたげな顔。

私は思わず「ごめんごめん、起こしちゃったね」と小声で謝る。
何も悪いことはしてないのに。

ベルはそのまま、また眠りにつくこともあるし、ぽんさんの足元に移動して丸くなることもある。
起きてしまっても、その眠たそうな目や、ぽやんとした動きがまた可愛くて、つい見入ってしまう。

寝言も寝相も「安心のしるし」だった

寝相も相変わらず自由で、お腹を出して仰向けになったり、枕の上に頭を乗せたり、人間のようなポーズで寝ている日もある。
でも一番多いのは、私やぽんさんの腕や足に顎を乗っけてリラックスしている姿。

私とぽんさんの間に挟まれて、布団に包まれて寝ている姿を見ると、あの病院で「寝言ですねぇ」と笑ってくれた先生の言葉がよみがえる。

「すごくリラックスしてるんだろうなぁ」

あの日の言葉どおり、ベルはきっと今、とても安心してくれている。
そう思うと、それだけで胸があたたかくなった