散歩嫌いでも大丈夫。ベルが教えてくれた“その子に合った過ごし方”

散歩が苦手なベル。意外な日常のスタート

うちの愛犬ベルは、いわゆる“散歩があまり好きじゃない犬”
家の中、何より人の膝とお布団が大好き。
犬といえば「毎日の散歩が楽しみ」というイメージを持っていた私にとっては、かなり意外だった。

散歩のためにハーネスを出してくると、それまで膝の上でくつろいでいたベルがサッと逃げて部屋の隅へ。
下手したらカーテンの裏に隠れようとすることもあるし、布団の中に潜り込んで「ぼくはいないよ」と言いたげにしていることもある。
「え、さっきまで撫でられて気持ちよさそうにしてたよね?」とツッコミたくなるスピードで、全力で避けに入っていた。

歩きたくないベルの全力アピール

ハーネスをつけたベルを抱っこして外に出ると、今度はしがみついて下りようとしなかった。
信号待ちなどで立ち止まると、すかさず立ち上がって足にしがみつき、「抱っこして」と強めにアピールしてくる。

一応、自分でトボトボ歩くこともあったけれど、しっぽは見事にダダ下がり。
テンションの低さが全身からにじみ出ていた。
その哀愁漂う後ろ姿を見ていると、何だか申し訳ない気持ちになってくる。

特に苦手だったのが、工事現場などの騒がしい場所だった。
大きな音がすると、ビクッと体を固くして、その場から一歩も動かなくなってしまう。
かと思えば、自転車が目の前を通ると突然スイッチが入り、追いかけようと必死になることもあった。

でも抱っこ散歩は大好き

でも、ぽんさんに抱っこされての散歩だけは、別だった。
腕の中にいるときのベルは、目をキラキラさせて、においや音、見えるものすべてに神経を研ぎ澄ませているようだった。
安心しきった顔をして、まるで「今日はどこまで連れてってくれるの?」というふうに、期待を込めて外を眺めていた。

そして絶対に自分から下りようとはしない。
ぽんさんの腕の中が自分の居場所だと思っているようだ。

たぶん、ベルにとっての“散歩”は「自分で歩くこと」ではなく、「ぽんさんに抱っこされて街を観察すること」だったのだと思う。
むしろ「人間の散歩に付き合ってやってる」くらいの感覚だったのかもしれない。

生まれて初めてのお散歩

こういう「抱っこされてお散歩するもの」とベルが認識してしまった経緯には、少し心当たりがある。
ベルをお迎えしたとき、お散歩デビュー前に抱っこして家の周りをぐるっと歩いてみる、という「なんちゃってお散歩」を何度かした方が良いと店員さんたちに助言してもらったのだ。

外の空気や音に慣れる必要があるから。
最初にぽんさんが抱っこして外に行き、私もその隣を歩いた。
ベルは震えながらぽんさんにしがみついて、キョロキョロと辺りを見回していた。

その様子が可愛くて、私たちは笑いながら何度かその「なんちゃってお散歩」をした。
もしかしたらベルの中でそのイメージが強く残っていて、「お散歩=抱っこされて歩くもの」になっているのかもしれない。

獣医さんに聞いてみた。「散歩は絶対必要ですか?」

「犬が散歩を嫌がるなんておかしいのでは?」「明らかに嫌がってるけど毎日行かないとダメなんだよね?」と心配になり、あるとき獣医さんに相談したことがあった。
「散歩に行くのを嫌がるんですけど、やっぱり犬って毎日行かないとダメですよね?」と聞いたとき、先生は笑ってこう言った。

昔は“散歩は必須”って言われてたけど、今はそんなことないですよ。

その言葉を聞いて、私もぽんさんも驚いた。

無理やり連れて行った散歩で風邪をひいてしまったり、拾い食いをしたり、草むらで虫をくっつけて帰ってきたり──
実際、そういう“散歩中のトラブル”は少なくないそうだった。

「無理に外へ出る必要はない」という選択肢

獣医さんいわく、「毎日かならず散歩へ行く」よりも、「その子にとって安心できる過ごし方を選ぶこと」のほうが、今は大事とされているらしい。
室内である程度の運動ができる環境が整っていれば、無理に外へ出る必要はないのだそうだ。

特にベルのようなイタリアングレーハウンド(イタグレ)は、寒さにめっぽう弱い犬種だった。
冬の散歩を嫌がる子はとても多く、無理に連れ出されて体調を崩すケースも多いという。

「散歩は絶対に必要なもの」だと思い込んでいた私たちは、その話を聞いてとても驚いたし、ちょっとホッとした。
獣医さんの言葉だけど、他の獣医さんは別の言葉を言うかもしれない。
それでも、私にとっては「散歩しないのは悪ではない」と認めてもらえたことで気持ちが楽になった。

気づけば「抱っこ散歩」が「いつもの散歩」に

もちろん、完全に散歩をしないわけではない。
気分転換にふらっと外へ出ることもあったし、ぽんさんがベルを抱っこして近所をゆっくり歩くこともよくあった。
…というか、下ろしてもベルが歩こうとしないので仕方なく抱っこしているうちに何となく「抱っこ散歩」が定着してしまったのだ。

抱っこ散歩中のベルは、自分が歩いていないにもかかわらず、どこか満足げだった。
空を見上げて、鼻をクンクン動かしながら、外の世界を五感で楽しんでいた。

その子らしさを尊重する暮らし方

ベルは完全にインドア派の犬だった。
でも、それはそれで良かったのかもしれない。
「みんながやってるから」「犬はこうあるべきだから」ではなく、その子自身の“好き・苦手”をちゃんと尊重してあげること。
それがベルにとっても、私たちにとっても、ちょうどいい関係だったと思う。

今日も、ベルはぽんさんの腕の中から興味津々で街を眺めている。
時々「ふんっ!」と鼻を鳴らしたり首を傾げたりするその様子に、私とぽんさんはほっこりしながらのんびり歩く。
これが、私たちにとっての「お散歩」だから。